脊椎骨折・脱臼(Vertebral Fracture/Luxation)
背景
脊椎の骨折・脱臼は、主に高所からの落下や交通事故などの外傷が原因となります。また、その他にも腫瘍や感染症、代謝性疾患などの非外傷性疾患に続発する場合もあります。
外傷性の脊椎骨折・脱臼は、いずれの部位でも受傷する可能性がありますが、胸腰椎接合部や腰仙椎接合部での発生が多く、稀に頚椎での発生も認められます(Takahashi F. et al. Jpn J Vet Anesth Surg. 2023)。外傷性の場合には、脊椎以外の臓器に重大な損傷を併発していることもあるため、まず、生命維持に関わる臓器損傷の評価および治療に重点を置くこととなります。
非外傷性の脊椎骨折・脱臼は、脊椎腫瘍および椎体不安定症が原因となることが多く、腫瘍による椎体の圧迫骨折あるいは軽度の外力による完全骨折によって、重度な脊髄損傷が誘発されることがあります。

症状
- 疼痛
- 歩様失調、不全/完全麻痺(受傷部位や重症度による)
- 排尿障害
- 呼吸筋麻痺に伴う呼吸不全(頚椎損傷)
- 併発する他臓器障害に関連した様々な症状
診断
脊椎の骨折・脱臼は、適切な身体検査や神経学的検査、画像検査によって、速やかに治療の優先順位を決定することが重要となります。
二次的な変位により脊髄損傷を悪化させる可能性があるため、触診や移動させる際には注意が必要です。全身状態が比較的落ち着いている場合は、神経学的検査によって、傷害部位の推定および脊髄障害の重症度の評価を行います。深部痛覚の有無は、予後に大きく関与するため、必ず評価します。
X線検査では、脊椎損傷の位置と程度の評価に加え、スクリーニングのために胸部や腹部の撮影も実施します。CT検査では、3Dに再構成することによって、脊椎骨折の形状や骨片の位置関係などの詳細な情報を得ることができます。
MRI検査は、脊髄障害の程度や範囲などの評価のために非常に有効な検査です。

左上:CT検査 矢状断像、右上:CT検査3D再構築像
左下:MRI検査 T2強調画像 正中矢状断像、右下:術後X線検査
治療法
外傷性の椎体骨折・脱臼の治療目的は、脊椎の安定化および脊髄の減圧となります。
コルセットは、外傷性損傷を受傷した小型犬や安定性の高い骨折症例が適応となりますが、症例のサイズや体重、活動性なども適応の重要因子となります。
外科手術の適応は、病変部位に明らかな不安定性が認められる場合や、コルセット装着後に安静を維持しているにも関わらず、脊髄障害の進行が認められる場合です。
外科手術の方法としては、インプラントを用いた椎体固定によって、脊椎安定化および脊柱管の整復による脊髄の減圧効果が期待できます。固定方法としては、椎体に挿入固定したピンやスクリューを骨セメントによって安定化する方法や、プレートによる固定法などが挙げられます。
しかし、いずれの治療法においても、受傷時の脊髄障害の程度によっては、不全/完全麻痺だけでなく、排尿障害など様々な程度の神経学的異常が残る可能性がありますので、可能な限り、脊髄障害が軽度なうちに早期安定化が理想です。

