変性性腰仙椎狭窄症(Degenerative Lumbosacral Stenosis)

背景

変性性腰仙部狭窄症(DLSS)は、一般的に広く馬尾症候群として認識されている疾患群の中で、MRIおよびCT検査を実施することで診断されるようになった腰仙椎関節(第7腰椎-仙椎関節)の不安定症を伴った椎間板や靭帯の変性が関わる疾患です。

馬尾症候群とは、脊髄終末部である馬尾神経および神経根が圧迫されることにより臨床徴候を示す疾患群であり、変性性腰仙部狭窄症以外にも、腰仙椎関節の形成異常、椎間板脊椎炎、骨折・脱臼、腫瘍なども含まれます。脊髄終末部の神経根の外観は、まるで馬の尻尾のように、細い神経根の束が複数並走して見えることから、このように呼ばれております。

変性性腰仙部狭窄症は、高齢の大型犬における発症が多いと認識されておりますが、当院では、小型犬や猫の患者様も多く来院されております。

病態

腰仙椎関節は脊骨の中で最も負荷がかかり、また、繰り返し、多方向の力がかかる関節であるとされているため、その靭帯や椎間板には負担がかかりやすく、靭帯の肥厚や椎間板の変性が進行しやすいと考えられております。それは腰仙仙関節の更なる不安定化を引き起こし、結果的に変性性変化の進行を引き起こし、病態の悪化につながると考えられております。

また、先天性の椎骨形成異常(移行脊椎)が認められることも多く、腰仙関節の不整合性より、馬尾神経および神経根の圧迫を引き起こすこともあります。

症状

  • 腰仙部の痛み、尾の動きが悪い
  • 階段の昇り降り、お座りが上手く出来ない
  • 歩行時のふらつき(後肢のナックリング)
  • 尿漏れ、便失禁
  • 起立困難
右後肢の固有位置感覚の消失 写真
右後肢の固有位置感覚の消失

診断

身体検査では、腰仙椎関節の圧痛(ロードーシス試験)、尾を持ち上げることによる疼痛(テールリフト試験)が多くの症例でみられます。

神経学的検査では、膝蓋腱反射の偽牲亢進、姿勢反応の遅延~消失、引っ込め反射の消失、会陰反射の低下または消失が認められることがあります。X線検査では、第7腰椎-仙椎間に変形性脊椎症や認められることがあります。

第7腰椎-仙椎腹側の変形性脊椎症と仙椎の沈下を伴う犬のX線検査 写真
第7腰椎-仙椎腹側の変形性脊椎症と仙椎の沈下を伴う犬のX線検査

第7腰椎-仙椎腹側の変形性脊椎症と仙椎の沈下を伴う犬のX線検査確定診断にはMRI・CT検査が非常に有効です。検査の際に、伸展・屈曲位の撮影を行うことにより、動的な病変を診断することが可能です。

また、CT検査は、術前の手術計画に有効なうえ、MRI検査だけでは分かりづらい椎間孔狭窄などの詳細な病態の評価も可能となります。

MRI検査 T2強調画像 正中矢状断像、CT検査における椎間孔狭窄
左:MRI検査 T2強調画像 正中矢状断像
右:CT検査における椎間孔狭窄
CT検査 矢状断像 写真
CT検査 矢状断像
左:腰仙部-伸展位 右:腰仙部-屈曲位

治療法

内科療法

臨床症状が腰仙部痛だけで初発の場合は、1〜2ヵ月の運動制限、消炎鎮痛剤を投与し、経過観察をします。また、慢性経過の高齢動物や、持病があり全身麻酔が困難な症例も内科療法の適応となります。

外科療法

内科療法で改善がみられない場合や運動神経、感覚神経の障害がある場合は外科手術が選択されます。なお、長期間、尿失禁が認められた症例では外科手術を行っても改善しないか、改善するまでに時間がかかる傾向があります。

外科手術は減圧術と椎体固定術の組み合わせで行います。減圧術は、背側椎弓切除術、椎間板部分切除術、椎間孔拡大術、関節突起切除術が挙げられ、椎体固定術は、ニュートラルな屈曲位の体位で、骨セメントとスクリューを用いた椎体固定術で行います。

背側椎弓切除術と椎体固定術実施後の術後X線検査 写真
背側椎弓切除術と椎体固定術実施後の術後X線検査
左:側方像、右:腹背像